作成日:2019/08/25 by AM   

 昨年(2018年)の春、6年間にわたるベトナム・インドネシア駐在から東京に戻って来た。
現地では新しい都市開発事業の仕事がメインであったが、各所で多くの現地スタッフに囲まれ、また周辺国 (シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマーなど)の色々な町にも頻繁に訪れ、まさに東南アジア漬けで、 地域社会や人々の生活、考え方等に相対する日々であった。
 熱帯の国々の気候は、あたりまえだが暑い。街は、年中どこも緑豊かで、赤、ピンク、白など様々な色の花が咲き誇る。 たまに訪れるリゾート地には、大きな椰子の木、青い空、澄み切った海…、心が癒される瞬間だ。
店先には、あらゆる果物、野菜、肉も魚もところ狭しと並び、どれも安い。勿論、都会では車やバイクの喧騒、 激しい渋滞にはゲンナリさせられるが、少し郊外に出れば昔からずっとそのままの風景〜青々した田園地帯〜が広がる。
 仕事も2・3ヶ月程経った頃から、現地スタッフに対して、日本人お決まりのイライラ感がつのってきた。 なぜ時間を守らない!なぜ責任持たない!それでは効率が悪いではないか!スケジュールが遅れるではないか! などなど。
そんな時、先輩の日本人から『バナナ経済圏』という言葉知っている?とアドバイスがあった。彼の説によると、 「バナナ(果物や食べ物)が自然に生えている国、苦労しなくてもとれる国」、転じて、「ガツガツしなくとも生きていける『裕福』な国」 ということらしい。なるほど周囲を見れば納得、僕はそんな国の人々と日々仕事をしていたんだ。日本流のアクセク働くとは違う国。 今までのイライラ感がスーッと消えていった。
東南アジアには、資源やエネルギーが豊富な国が多い―原油・天然ガス・石炭・鉱物、農業・漁業は一年中、熱帯気候では寒さで死ぬこともない。 食べるのに困らないから余裕がある、おおらか、急がない、無理しない、だってそんな必要全くないのだもの。たぶんこれが、 『幸福度が高い』、より『人間的な社会』ということなのではないか? 更にこれらの国々は人口が多く(ASEAN<東南アジア諸国連合> 10ヵ国合計で6.4億人)、若い(平均年齢29歳台 vs 日本はなんと46歳)。将来に向けた圧倒的な人的パワーがある。 この中で、約3000万人と言われる華僑の経済的パワーも無視できないし、子弟を欧米の大学に留学させる教育熱心さで、 国際レベルの人材を多く作り出す。
この1年、東京に戻って改めて気づかされたのは、まったく真逆の日本の現実。あらら!問題だらけではないか!

資源は乏しく、農業・漁業も自然との戦い。

高ストレス社会は、時に非人間的。日々起こる異様な事件。

経済は低成長、デフレスパイラル。

国の借金は天文学的レベル。

少子高齢化、人口減少、更には地震や自然災害

常に急かされているようなプレッシャーと何が何でも、といった悲壮感

残念なことにどこにもバナナは生えていない。

なぜこんなに高度インフラ化されているのに、『幸福』とか『裕福』、『余裕』なんて言葉が街の中で、心の中で響かないのか。
 駐在中ずっと考えていた問いがある。果たして日本(国、日本の企業、日本人)は、こんな『バナナ経済圏』の人々から、 ずっと『大事で必要』と言ってもらえるのであろうか?経済・技術援助、企業の産業投資は、すでに中国、韓国、台湾などと 天秤にかけられており、日本の優位性がずっと続くのか疑問。お金を出すだけの貢献は、そろそろ不要になるであろうといった忠告も現地で聞いた。 JPOPやアニメ、インバウンドブームでの「桜、京都、富士山、寿司、神戸牛等々」は、ずっと大事で必要とされるのか?
 逆に、我々にとってASEANの国々はすごく大事(日本にとっては絶対必要)なのです。
産業の移転先として、既に、11,000社以上が進出、日系自動車メーカーの生産台数は国内より海外がはるかに多い(2017年国内約920万台、 海外1930万台(内、ASEANは約350万台))のだから。
エネルギーや資源、食料、製品の貿易相手国として。また、防衛や安全保障面でも昨今の中国、朝鮮半島情勢から死活線と言っても過言ではない。 もちろん癒しのリゾート地でもある。
 もうすぐ桜の季節。より多くの外国人がこの国を訪れます。ヒジャブを被ったインドネシア人、よくしゃべるベトナム人を見かけたとき、 店先で『バナナ』を目にしたときは必ず、是非この問いかけをして見て下さい。 「これからずっと『大事で必要』と思われるために我々はどうしたら良いのか?」。えっ?そんな余裕ない?やはり、 山積みの目先の問題解決が先ですかね(笑)。